エマニュエル・トッド『西洋の敗北』読了
- エマニュエル・トッドは1951年生まれ,フランスの歴史人工学者・家族人類学者である。家族システムの違いや人口動態に着目する方法により(帯)現代を分析する。本書は2023年10月までに書かれ,日本語版の一刷は2024.11.10である。
タイトルはなにやら物騒で耳目を引くキャッチーなものである。ウクライナ戦争は3年を過ぎ,トランプが被害当事国のか頭越しにプーチンと戦争終結を画策しているのが、まさにこの文章を書いている現在(2025.3.26)のリアルな状況である。
まず確認。我々日本は西側諸国の一員といたカウントされていることの認識の上本書を読み進めていく。トッドは,人口・出生率・乳児死亡率・自殺率・平均年齢などのデータを分析しつつ,各国の現状を分析しつつ,歴史的地理的問題を絡めながら論考を進める。
まず,最初に明記した通り,西側に属する日本は西側からの視線で世界を見ている。そうような情報で,ロシア=悪という図式を刷り込まれている。トッドは前述の方法を駆使し、ロシアの現在・ウクライナのあり方・東欧・欧州の今・特に現在の英国・北欧の関係・米国・そしてウクライナ戦争を分析する。
まず,ロシアだが,自殺率も乳児死亡率もここ数年で大きく改善され欧米,特にアメリカなどと比べとても安定している。さらにソ連解体時がどん底だった経済はプーチン以後改善され好調に推移している。また,小麦の生産量も20年前と比べ倍増している。さらに,エネルギーは完全に自国で賄うことができる。それに比べ西側諸国は宗教的にも経済的にも内側から朽ちており,トッドの言葉では「国家ゼロ」の状態になっているか(英国),それに突き進んでいる。
我々が耳にする情報では,西洋とロシアを比べれば西洋が経済的に圧倒し,不埒な悪が無慈悲にウクライナで人を殺している,だから西側諸国が一体となり,悪のプーチンのか我儘を押さえ込まなければならない。こんなところではないだろうか?
GDPなどの指標にはロシアは顔を出さない。だから極貧なのでは?アメリカは新自由主義の推進により頻繁さは拡大しているものの,依然GDPトップの豊かな国である。果たしてGDPなるものは世界の本当なあり方を示すモノサシとして機能しているのか?どこかに現状を覆い隠してしまうカラクリがあるのではないか?
いずれの民主国家でも同様であるが,中間層の厚さがその国の安定度や民度・暮らしやすさなどを考える上で大切な指標である。この点から言うと,アメリカはほぼなにも生み出していない。ラストベルトの白人が象徴するように国家を支えてきた産業は壊滅し中間層はもはや存在しない。そこにあるのは1%の大金持ちと99%の貧乏人だ。彼らはロクな教育も受けられず,生活の背骨として機能してきたプロテスダンディズムもゼロ状態になり,麻薬や銃に翻弄されている。
デフォルメされた表現ではあるが間違ってはいない。それに比べ視点を変えればロシアの方が生活は安定しており社会倫理観は保持され民度が高い。
ではなぜ,ロシアはウクライナを攻撃するか?トッドによればロシアは西側遠攻撃し領土を拡大しようなどとは考えていない。それは人口・経済などから判断しても明確な事実である。ただ北欧もアメリカの衛星国として機能する今,独立性を高め西側に擦り寄るウクライナのあり方は脅威であり,NATOに入るなどはもってのほかである。
さらに,我々は西側の論理で世界をみているが,西側がここ数百年でアジア・アフリカにしてきたことは大変遺憾なことであり,西側以外のほぼ全ての国は内心でロシアの側にいる。中国もインドも中東もアフリカも。人口比で言えば向こうが上回るののは明らかである。
文明高く正義の欧米がロシア・中国の敵を倒し,多くの貧しい国々に産業と民主主義を覚えてもらい,幸福な社会を作りましょう。みたいな世界観を純粋に信じる人間は西側にですらたった1人も存在しないであろう。欧米は自国の利益のために世界にしてきたことの非道さは明確であろう。
中国がインドが中東がアフリカが,西側を忌み嫌うのはある意味至極当然のことであろう。裸の王様が自身の醜悪さに目覚め始めている。
こういう視点はどうだろう?トランプ・マクロンとプーチン・習近平と比較し,どちら側が優れているか?ものさし一つで皆の見え方は変わる。
白蟻(行き過ぎた民度)により内側から朽ちて崩壊寸前であることが明白になってきた。
最後に,本書はフランス語で書かれた日本語にも翻訳されているが,未だ英語版は出されていないそうだ。ある意味病理の深さと,怯えが垣間見られる現実だとはいえまいか?