ハラリ『NEXUS情報の人類史』読了
ようやく読了。やく一ヶ月本書に付き合ってきた。
著者ユヴァル・ノア・ハラリは、1976年生まれの歴史学者であり、現在はイスラエルのヘブライ大学で教鞭を取っている。もともとヘブライ語で書かれた『サピエンス全史』の英語版が2014年に発表されて以来、『ホモ・デウス』『21LESSN』等々、世界的ベストセラーを連発している、新進気鋭の知の巨人である。その彼が6年の歳月をかけ、全人類に警鐘を鳴らすため表されたのが本書である。タイトルにある「NEXUS」は「絆」「つながり」「関連性」を表す英語である。
「サピエンス全史」の頃から言われているように、我々人類は強い力も牙も爪も持っていないのに、この地球の頂点として君臨することができたか。それは、他者と力を合わせることができるから、である。話し合い、あるいは命令し、そして一つの世界観に向かって全体で力を合わせ社会を作ってきた。それが、紙の発明からラジオ・テレビを通じて、少ない集団でしかなし得なかった「民主主義」や「全体主義」を、数億人規模で可能にすることができるようになった。それを可能にしてきたのはまさに「情報」である。しかし、紙も電波も彼自身で意思を持ち、主体的に発することはできなかった。人間が「使う」ことでそれらは民主主義が実現できたり、スターリンの支配を可能にしてきた。情報を掌握するものの勝利である。
と ころがである、2016年にAIが人間の囲碁チャンピオンを破って以来、アルゴリズムは一人歩きするがごとく進化した。我々は日々、スマートフォンでさまざまな検索を行い、Amazonで物を購入し、フェイスブックで自らの情報を流し、Xに意見を書き散らす。ちょっと前、就職活動中の学生が面接官に裏アカウントでの反社会的な言動を指摘され、就職試験に落ちたという話があった。追おうと思えば、裏アカウントでも本人の個人情報・カード番号・資産・性癖・思想・嗜好を特定することができる。Amazonは世界中の人間の個人情報を蓄積し、フェイスブックのアルゴリズムはフェイクニュースを自身で作り垂れ流す。帝国は植民地から原材料を略奪し、製品を高額で売りつけることで巨大帝国となった。しかし、今や、そんな面倒なことをせずとも良い。
情報だ。北京にあるいはサンフランシスコに個人のデータが集積される。人々が嬉々としてアップするネコの画像をAI自身が学習することによって、認証システムは格段に上がった。イランで、無数の監視カメラはヒジャブを着用しない女性を探し出し、検挙し投獄している。石破茂の趣味・性癖・病歴等がアメリカののコンピュウータの中で蓄積されているのだ。
最も恐るべきことは、AIが彼自身学習することだ。人間が数万年かけて磨き上げた知や文化をあっという間に超えるであろうし、アルゴリズムのバグで人間を奴隷にしたり抹殺する方向に発展する可能性だって大いにある。第一彼らは死なない。血が流れない。苦しくない。欲望がない。だから、平然と躊躇いも葛藤もなく核を飛ばすことだって可能である。
人間の知は素晴らしい側面もあるが愚かでもある。愚かなことを繰り返しながら、それでも失敗し自己学習してきた。多くの痛みや犠牲を払って。結局人間は完璧ではない。常に間違う可能性を孕んでいる、だから、方向を正すことができる。しかし、AIは?
あと、10年で世界は全く違うものになってしまう可能性は大いにある。習近平やプーチンが築いた全体主義を乗っ取り、AIがプーチンや習近平やトランプを操る時代が来る、と、思うと身の毛がよだつ思いがする。