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畑仕事、キャンピングカーの旅、サウナ、読書…晴耕雨読の日々を綴る【いくら君のこころととのう日記】

ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』読了

読書について 2023年8月21日

ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』読了

 「いくら君」は1980年(昭和55年)に一浪の末大学に入学した。文学部文学科日本文学専攻である。

 思いっきり日本の文学作品を読み込むぞ! と気合が入っていた4月、文学部の学生が基本的必修の講座として「文学概論」といういう授業があった。担当は、永藤某で唐木順三の弟子を自認していた。当時、まだ30代の若手である。

 その先生の最初の授業で「君たちが読むべき本」としてあげたのが、『クレーヴの奥方』と『碧眼録』(岩波文庫)であった。なぜ彼がその時、これらの本を若い学生たちに紹介したのか、その理由は忘れてしまった。が、「いくら君」の記憶に強く刻まれたことは間違いない。しかし、例に漏れず、購入するにはしたが(そして多分読み出そうとしたが)結局その時は読み通せなかった。

 で、この度、三島→ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』→『肉体の悪魔』、そしてようやく『クレーヴの奥方』に辿り着いた。

 『ドルジェル伯の舞踏会』は1924(大正13)年、作者ラディゲの死の翌年に発表された。そしてラディゲは『ドルジェル伯』を書くにあたり、フランス心理小説、恋愛文学の始祖『クレーヴの奥方』(1678)に学んだことを明らかにしている。随所に参考にした痕跡が散見される。

 『クレーヴの奥方』は完全に古典である。日本で言えば江戸時代ですよ。フランスでは当時、小説(ロマン)はたくさん書かれていたが、近代文学として残る作品としては、この『クレーヴの奥方』の右に出るものはないそうだ。みな、騎士道物語であったり、パターン化された恋愛もので、人間の苦悩を描き切った古典的小説は『クレーヴの奥方』をもって嚆矢とするのが常識らしい。

 さて『クレーヴの奥方』である。舞台はフランス17世紀王朝時代の宮廷である。宮廷デヴューしたてのシャトラール姫(16歳)の美しさに多くの宮廷人たちは恋をするが多くのライヴァルを蹴落とし「クレーヴ殿」が彼女との結婚を手に入れることになる。しかし、クレーヴ殿は妻が恋人を見る目をもって自身を見てくれないことに不安を持つ。貞淑な妻ではあるが、私に恋をしていない。そう苦悩する「クレーヴ殿」である。奥方も彼に尊敬と信頼の心を持ちはするが、恋愛対象として見ることはどうしてもできない。

 そんな不安定な状況の中、恋多き男「ヌムール公」が奥方に恋をし、その情熱的な恋情により言葉にせぬとも、奥方にその気持ちは伝わる。奥方も「ヌムール公」への恋心を持つが、それを自身に認めたり、公に伝えることは、クレーヴ殿を裏切ることになるゆえ、心の底に押し殺す。しかし、ヌムール公は自分の恋心に誠実に行動しする。それがクレーヴ夫妻をとてつもなく苦しめる。妻の不貞を信じた殿は嫉妬で病に陥り亡くなってしまうが、とうとう最後に奥方は「ヌムール公」の申し入れを拒み、自分の心を通し貞淑を守り、短い人生を終える。そこに描かれる心理劇は凄まじい。「嫉妬」の恐ろしさ、破壊力を浮き彫りにする。

 最初の、小説の舞台・人間関係など、状況を読者に納得される描写の部分は多少かったるかったが、ヌムール公の押しと奥方の逃げの構造始まると、読者を最後まで一気に引き寄せる牽引力がある。傑作だ。面白い。

 しかし、こんな恋をしていたらやはり、心臓というか、神経がもたず、人はぬであろう。恋に殉死? うーむ。もう老人の「いくら君」には味付けが濃すぎるかもしれない。

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