斎藤哲也編『哲学史入門I』読了
結構派手に新聞広告を打っていたので、一応目を通しておこうかと購入した。2024、4月・5月・6月の立て続けのリリースだ。原田真二のデビューみたいである。斉藤哲也編『哲学史入門』Ⅰ読了。本書「あとがき」にもあるが、人文ライターである著者(哲学は素人という体)が、その道何十年の哲学者・哲学研究者にインタビューするという形式である。Ⅰは古代ギリシアからルネサンスまで。Ⅱがデカルトからカント、ヘーゲルまで。Ⅲが現象学・分析哲学から現代思想まで。そのⅠを昨日読み終わったというわけだ。
本書は、学者の論文ではなく、少し勉強した素人が質問し、それに対し専門家が口語で説明解説するといった形式。これなら難解な哲学もわかりやすく提示できるのではないか、という発想である。なかなか面白いことを考えたなと思ったが、なんてことはない。「あとがき」で著者が種明かしをしているが、「聞き書き哲学史」の構想は、「哲学が噛みつく」「哲学と対決する!」(柏書房)から刺激を得たという。両書はどちらも「フロソフィー・バイツ」という哲学者インタビューのボットキャスト番組を書籍化した物である。(2017年の時点で総ダウンロード数は3400万という人気コンテンツらしい)そういった手本があった上で、令和の哲学通史を作ったといわけだ。
本書は古代ギリシャ・ローマの哲学を納富信留氏、中世哲学を山内志朗氏、ルネサンス哲学は伊藤博明氏にインタビューしている。内容だが、正直に言って「いくら君」にはあまりピンとこなかった。古代ギリシアはソクラテス・プラトン・アリストテレスというビッグネームがいるので、それなりに今までどこかしらで触れており、予備知識のようなものが多少はあるのだが、ヨーロッパ中世となるとほぼお手上げである。スコラ哲学が教義的で厳格なイメージがあるくらい。ルネサンスはその反動、人間開放!。その程度の理解である。またヨーロッパといってもの様々だし、その時代のブームになった思想は歴史と必ずリンクしているだろうし(高校時代世界史をきちんと勉強しなかった!)、自身の知識の無さから、学者たちの言葉がどうもスムースに頭に入ってこない。また、新しい企画なので、今までとは違った哲学通史の入門書を作ろうという強い思いのため、結果としてある程度通史を理解している人でなければ、学者たちが語る面白さは理解できないのではないか、と感じた。
またインタビュアー(著者?編者?)の斎藤哲也であるが、哲学の素人ということになっているが、著者紹介を見ると東京大学文学部哲学科卒とある。あまり素人である、とは言えないのでないか、とも思った。
本書が成功しているのかどうかは判断しかねる。単に「いくら君」の勉強不足だということもありうる。
しかし、思うのである。古代ギリシア・ローマの哲学が花開いたのは、ざっくり言ってBC600〜BC400頃。この間にビックネームは出揃っている。その後大きな「国家」が形成され、キリスト教が庇護され国教となるなる中世は300〜1200。戦争と神と停滞の季節だった。それを打ち破るルネサンスは1200〜1500。プラトンに帰るのである。どうもあまりに古代ギリシアが輝かしく見えてくる。デモクラシーが自由な発想を生み出し、巨大国家の支配が人々の心から自由を奪うのだな、と。
まあいいか。次はデカルトからカント・ヘーゲルである。さて、どうなることやら。