平野啓一郎『本の読み方』スロー・リーディングの実践
前回紹介した『小説の読み方』のが、発展編だとしたら、本作『本の読み方』は初級編にあたる。読む順序(ここに紹介する順序)が逆になってしまった。だからと言って、なんということもない。それぞ素晴らしい読書論になっている。
本作は2006年刊行され、好評により2019年6月に文庫化された書籍である。初版から13年もの時間が経過しているが、ゲラを読んだ段階で確信し著者はさほど手も入れず文庫化したということだ。
さて、本作は平野氏が学生時代から作家としてデビューした以降も、一読書家として書籍に対して取り組んできたさまざまな読書術を惜しげもなく我々に教えてくれる物である。サブタイトルにもあるが、平野氏はまず、昨今の速読に疑問を呈し、徹底的にスロ・リーディングを推奨する。速読は作業だがスロー・リーディングは漫然と読むものに対し質的な差がつくものだという。
・量から質へ 速読家の知識は栄養ではなく単なる脂肪である ・小説はスロー・リーディングできない ・辞書を引く癖を付ける ・作者の意図は必ずある ・すぐ前のページに戻って確認する ・より「先に」ではなく、より「奥に」 ・傍線や記号をつける
そして「再読」にこそ価値がある!
さらに実践編として、夏目漱石『こころ』、森鴎外「高瀬舟」、カフカ「橋」、三島由紀夫『金閣寺』等々の作品の一部の読解を通して、その作品の奥へ奥へと誓いを深めていく手立てを自分の身にできるよう、導いてくれる。
平野啓一郎は若くして芥川賞を受賞し、次々と問題作・話題作を発表する優れた作家である。しかし、彼はどうやら天才ではないようだ。作品を深く理解するために何度も読み返し、辞書を弾き、立ち止まり、考え、という作業をひたすら繰り返すことによって、作家的内的財産を広く深く自分の栄養としてきた人である。また、書く方でも、原稿用紙換算で1日に4・5枚書けば、今日はよく仕事をした、と感じられるようなペースで進めているとのことだ。そこには、ただ長い長い思索があることは間違いない。