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畑仕事、キャンピングカーの旅、サウナ、読書…晴耕雨読の日々を綴る【いくら君のこころととのう日記】

金原ひとみ『蛇にピアス』読了

読書について 2023年11月2日

金原ひとみ『蛇にピアス』読了

 

 言わずと知れた、金原ひとみのデビュー作である。彼女は本作で「スバル文学賞」と「芥川賞」をダブル受賞した。弱冠二十歳の時である。同時に、綿谷りさも『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞し、当時、最年少・女性とかなり話題になった。綿谷りさは正当的な可愛らしい女の子で、早稲田大学在学中。一方、金原ひとみは小4から不登校で金髪の痛い女の子。という対照的な存在であったと記憶している。芥川賞受賞直後『蛇にピアス』を1ページだけ読んでみた。スプリットタン(蛇とかトカゲみたいな舌)の話題で盛り上がる「アマ」と「ルイ」のシーンから始まる。私はその時、あっ、だめだ。とページを繰るのをやめてしまった。怖かったのかもしれないし、生理的に受け付けない、ということにしたかったのかもしれない。しかし、実は、若さや、才能、肩書きに、嫉妬をしていたのだ、と思う。へー、最近の若いもんはけしからん、みたいな世俗的頑固親父になって、心を閉ざしてしまった。しかし、彼女のこの作品はずっと心にのこっていて、いつか読まなければ、と思っていた。

 先日読んだ平野啓一郎氏の『本の読み方』に、本作が引用されていたため、すぐ購入し机の上にしばらく置いてあった。しかし、彼女の順番がなかなか回って来ず(大変な積読状態になっているため)、今回ようやく、彼女が私を呼び止め作品へと導いてくれたという次第である。

 前置きはいい。今回、読了後、倒れそうになるくらい驚いた。これは、大変優れた作品である。そして、あまりある才能を神から任せられたものですら若い時にしか描けない特別な作品であろう、ということを強く実感した。ピアス・刺青・セックス・SM等々、話題に事欠かない題材の上に本作は載っているのだが、でも、明らかに、作者は誠実に、誤魔化しなしに、主人公「ルイ」の痛々しい弱さに寄り添っている。いや弱さではない。傷つきやすい何か?でもなんだか違う。とにかく、とてつもなく感性の鋭い、世間の、あるいは自分の嘘を許さないナイーブな存在とでもいうべきか。

 生に違和感を持ちつつ、ピアッシングをしたり、リストカットをしながら、どうにか生を生き続け、そして、大人になって、現実的世界に適合し、私も若い頃は・・・、なんていう人間は多い。しかし「ルイ」の生きている世界は、その緊急度というか壮絶度が桁違いなのだ。人は人をここまで追い込めない。あるいは、ここまで追い込んだ人間は小説など書けない。しかし作者は両方を乗り越えている。あるいは並走している。

 今回、この文書を書くために金原ひとみを少し調べてみたのだが、芥川賞受賞が2024年。えっ?! 19年前! もうそんなに時間が経ったんだ。そんなに、私は長い時間、彼女のことが気になりながら、彼女の本を手に取らなかったのか、と、ため息をついた。二十歳だった彼女はもうすでに39歳? 結婚もし、お子さんもいらっしゃる。彼女は肉体的にも精神的にも破滅せず、現実世界にそれなりの適応をしながら書き続けている。いや、書くことが彼女を現実世界に繋ぎ止めているのだ。

 ああ、金原ひとみの今後の幸福と、小説家としての活躍を強く祈るばかりである。(2つは両立しないかもしれないが)。

“金原ひとみ『蛇にピアス』読了” への1件のコメント

  1. みなとむし より:

    あ、蛇にピアスは読んだ事ある!

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